東京高等裁判所 昭和24年(新を)966号 判決 1949年11月15日
控訴人 被告人 鈴木和正
弁護人 三輪寿壯
検察官 渡辺要関与
主文
本件控訴はこれを棄却する。
理由
本件控訴の趣意は末尾に添附してある弁護人三輪寿壯作成名義控訴趣意書と題する書面記載の通りである。これに対し当裁判所は左の如く判断する。
論旨第一点について。
刑事訴訟法第二百五十六条には起訴状には公訴事実を記載すべきこと。公訴事実は訴因を明示してこれを記載すべきこと、訴因の明示にはできる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをなすべきことを規定している。これによると訴因とは罪となるべき具体的の事実換言すれば犯罪構成要件に該当する具体的の事実をいうのであるか、その特定とは他の訴因と紛れることのない程度に即ち同一性を認識させるに足る程度に日時、場所、方法、目的物件等の記載によつて罪となるべき事実を特定すれば足るのであつて同一場所における同一占有内の財物を奪取した強盜罪の目的物については、目的物の一、二を具体的に説明しその他の目的物は単に数量丈けを記載しても右記載は日時、場所、被害者の氏名等と相俟つて罪となるべき事実を他の訴因と区別しその同一性を認識させるに十分である。本件起訴状の記載を見ると、
「被告人両名は金員を強奪すべく共謀の上、昭和二十三年十二月七日頃の真夜北蒲原郡木崎村大字木崎二番地谷田松三方に到り就寢中の右松三を繩にて縛り上げて暴行を加え、同人及びその妻女に短刀を突き付け騒ぐと殺すぞ金を出せ等と告げて危害を加うべき気勢を示して脅迫し因つて同人等所有に係る現金五千円位及び中型トランク男物二重トンビ等衣類雑品合計二十一点位を強取し」
と記載されてあつて、所論目的物も衣類雑品であることが記載されてあつて、右記載は他の日時、場所、被害者の氏名記載と相俟つて罪と為るべき事実を特定しているから所論目的物についても起訴の効力あるものといわねばならない。従つて原判決がこの点について審判したのは正当で何等違法の点はない。本件起訴状は前記の如く強盜の目的物を「現金五千円位及び中型トランク男物二重トンビ等衣類雑品合計二十一点位」と記載されていたが原審は「現金四千五百円及び中型トランク男物メルトン製二重トンビ等物品等二十三点」と認定していてその員数において二点の相違あること所論の通りであるが、右原審認定事実は公訴に係る事実と同一性を有し且つ原審がかように認定するについて訴因変更の手続をとらないでも被告人の防禦権を侵害することがないと認めるから右二点についても起訴の効力の及ぶ範囲でこれを逸脱したものでない。従つて原審の右措置には何等所論のような違法はない。(当裁判所昭和二十四年(を)新第四八〇号同年十一月十二日第十二刑事部判決参照)
(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)
控訴趣意書
第一点原判決は審判の請求の範囲を逸脱して判決した違法がある。
検察官検事中村直治提出の起訴状によれば被告人両名が共謀して昭和二十三年十二月七日頃、北蒲原郡木崎村大字木崎二番地谷田松三方に於て強取したものは谷田夫妻所有に係る「現金五千円位及中型トランク男物二重トンビ等衣類雑品合計二十一点位」である。(記録第二丁乃至第三丁)
右の現金五千円位及中型トランク男物二重トンビについては審判の対象となるのは疑いないが右以外の衣類雑品は何等具体的に特定されて居らないので右起訴状のこの部分の請求については無効であり、審判の請求がなかつたものといわねばならぬから原審裁判所の審判権は右部分については及び得ない。然るに原判決は右現金五千円位及中型トランク男物二重トンビ以外の「衣類雑品」についても勝手に証拠により認定して恰も始めより審判の請求が有効になされたものとして被告人等の断罪の用に供した違法があり、而も右は明かに判決に影響を及ぼすものであるから破棄を免れない。
更に右検事は「合計二十一点位」と右起訴状に記載してあるのであるが、疑はしきは「常に被告の利益」に解釈して合計二十一点或はそれ以下の認定は兎角二十一点以上については審判の請求なきものとして二十一点以上には審判権は及ばないと解するのが妥当であるにもかかわらず、原判決は「計現金四千五百円物品二十三点金五万円位」と認定して居る。これ又審判の範囲を逸脱して判決したものと云わざるを得ず、原判決は何れにしても破棄さるべきである。